第二章   移籍(四)                              
 前のジムに顔を出すのは久しぶりであった。まあ、用事がないのだから当たり
前であろうが、何とも懐かしく思える。ここで、昔、ボクシングのライセンスを
所得したのだ。だから、会長には心底世話になったと思っている。その気持ちは
今現在、他のジムに移籍してからも変わらない。あの会長がいなかったら、ボク
シングはストレス解消のものでしかなかっただろうから…。
 12月に入った直後、私は前ジムの会長から、移籍を認めてもらった。勿論、
元プロの移籍であるから、それなりの金が必要になることは事実であった。
 11月の終わりから、数回に渡り、前ジムの会長との話し合いが持たれた。
 私の仕事は夜であるから、まず前ジムでは練習ができない。そして、年齢の事
もあり、もう一度、何とかリング復帰ができるものならば、それを叶えたいとの
事を、会長に伝えた。このジムを去ってから約5年の歳月が経っている。それを
考えると会長としては、復帰は困難であると首をかしげたりもした。しかし、そ
れだけの思いがあるならば、移籍を許そうと言ってくれた。私はただただ、会長
に対して、頭を下げるしかなかった。
 コミッションに提出する書類をそろえ、現ジムへと持って行き、それを受理し
てもらうと、本格的に復帰の話が上がってきた。しかし、今の状況では何をやっ
ても無理であった。
 スタミナの事もあるが、それ以上に身体を今まで以上に鍛えあげなければなら
ない。体重のことも有るし、技術をつけてもしれを実行するだけのスタミナもな
い。かといって、一気に練習をしては以前のように、身体を壊す可能性がある。
一歩づつかもしれないが、少しづつかも知れないが、やっていくしかなかった。
 もう28歳。日本のボクシングはプロテストを受けられる年齢が設けられてい
るから、その年齢までになんとかしなければならない。30歳未満…。何とかそ
れまでに…。そんな思いを抱いて、私は練習に励んだ。
 今一度、ボクシングの復帰を決めた2002年。それももう終わり、新しい年
を迎えることになっていた。28歳。ぎりぎりのがけっぷちに向かっていく一歩
手前であった。

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