第五章   29歳を迎えて(一)
 10月に入ると、プロテストの申し込みを済ませたせいもあってか、気合が否
応なしに入ってしまう。私よりも強い選手もいるのだが、先に受けられることに
なったのは、年齢のせいであろう。2003年10月をもって私も29歳になっ
てしまった。プロボクサーのテスト資格は30歳未満である。だからこそ、急ぐ
必要があった。会長も私の気持ちをわかってくれているようであった。できるで
きないは二の次である。それ以上にどれだけの事をやろうとしているかという、
それが生きていく上で問題になってくると思う。死んだほうが楽な場合も多々あ
ると思う。しかし、生きているのだから、必死に生きていこうと思っている。そ
れでも、自分を削ってまではと考えているところが保守的であった。
 何だかんだと言っても、自分でも思ってみないほど早く年齢を重ねてきたのだ
と実感している。そして、こんな30歳と描いていた自分にはなれていない。し
かし、現在の30歳も自分としては満足していると思う。あと一年…、そんなに
すぐに人は変われない、でもいいじゃないか、少しでももがいてみよう。生きる
ためにあがいてみようじゃないか。
 誰のために生きているんじゃない、自分の為に生きているんだ。そんな事を言
いつつも自分のことだけを考えている訳じゃない。この年齢になって、自由とは
不自由さの中にある、他人との調和の中に成り立っているものであると、判って
きているから、「自己中心」でも、自分だけという意見ではいけないと、わがま
までありながらも、少しは頭の隅に置いているつもりだ。
 
 元ボクサー。
 現在はその言葉しか当てはまらない。29歳を迎えて、今一度自分の人生を振
り返りこれからの人生を少なからず考えてしまっている。

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